The World Is Flat 『フラット化する世界』 予告! #3 [新刊!]
『フラット化する世界』は、一年前の二〇〇五年四月に発売されてたちまち大ベストセラーになり、この年だけで一〇七万部を売り上げた。二〇〇六年四月九日の時点でも、《ニューヨーク・タイムズ》のハードカバー・ノンフィクション・ベストセラーの第四位につけている。五二週連続(つまり発売から丸一年)ベストテンを維持し、アップデート&増補版が出る直前であるにもかかわらず、売れ続けている。
なぜか?
必読の書だからである。万人が読むべきだし、読まなければならない。
政治家、金融関係者、グローバル企業の経営者、IT産業関係者のような人々ばかりではなく、教育関係者、商店主、自営業者、文筆家、社会改革者、その他さまざまな職種の人々に向けて書かれた本なのだ。
個人がグローバリゼーションの時代を生き延びて、今後も繁栄するためには、「世界のフラット化」がどういうもので、どう関わってくるのか、どう利用すればよいかを知る必要がある。それにはこの本をぜひとも読まなければならない。
* *
よく考えれば当たり前のことだが、国家も企業も学校も、組織はみな個人から成り立っている。個人の能力やバリューを高め、それを発揮できるようにすれば、組織の能力も高まる。いまほど個人が権限を持った(エンパワード)時代はなく、国境を越えた共同作業(コラボレーション)や革新(イノベーション)がますます活発になっている。
インターネット、光ファイバー通信網、パソコン、携帯電話などの通信テクノロジーの進化と、マイクロソフト・ワードのような標準化されたソフトウェアの普及によって、われわれは、地球上のあらゆる場所にいる人間と共同作業を行なえるようになり、地球規模でのアウトソーシング――先進国からインドや中国への仕事の流出――が起動した。ビル・ゲイツが述べているように、マイクロソフトのような最先端企業が、次世代OSの基幹部分の設計まで中国で行なうようになった。これまでアウトソーシングが不可能だと思われてきた税務処理や医療サービス、ソフトウェア開発、はてはジャーナリズムといった知的労働まで、インドや中国に奪われていく――それが「フラット化」の一つの顔なのだ。
* *
ローエンドの仕事が低コストの中国やインドなどへ移りつつある現在、欧米や日本など先進国は、アウトソーシングされない「新ミドルクラス」の仕事を創出し、そういう仕事ができるように国民の能力を高めなければならない。
それには教育が重要な役割を示す。国や教育機関の主導で科学教育を充実させて、フラット化の時代にふさわしい人材を育成しなければならない。
この本では、一〇〇ページほどが教育問題に割かれている。フラット化する世界では教育がきわめて重要だからである。ハイスクール教師の言葉として、つぎのような一節がある。
* *
……われわれが学校で目にしている危機の根本は、アメリカの家庭に本や印刷物がきわめて少なくなっているという現状にあります。そういう家では、生徒はテレビ、コンピュータ、テレビゲームなどで遊びます。(中略)まずきちんと本を読まなければ、しっかりした作文の技術は身につきません。こうした技術が充分に発達していないことが、人種や収入に関係なく標準テストの全科目の平均点の低下に結びついています。家庭での読書が根本的に大事であり、必要不可欠なのですから、教育はまずそこから始まります。猛勉強は教育には付き物だし、学校の成績はとても大事だという意識は、家庭で育ちます。
* *
また、こんな場面もある。日本の現状に照らして、深く考えされられる。
* *
アメリカの教育には有利な点がある――丸暗記ではなく創造性に重点を置いている――という通念について、ビル・ゲイツにたずねると、言下に否定された。中国や日本の丸暗記中心の学習からは、アメリカと競争できるような革新者がおおぜい生まれることはないという考えは、嘆かわしい間違いだ、とゲイツはいう。「掛け算ができなくてソフトウェアが作れるなどという人間に会ったことはない……世界一創造的なテレビ・ゲームはどこのものか? 日本だ!(中略)わが社の優秀なソフトウェア制作者の何人かは日本人だ。秩序立てて物事を理解していないと、それより進んだ物事を作ることはできない」
* *
コニカミノルタの複合コピー機、NTTドコモの携帯電話機、トヨタのハイブリッドカー「プリウス」など、先進のテクノロジーを組み合わせた製品をグローバルに販売することで日本は成長してきた。だからこそ、「世界のフラット化」が先進国にもたらす影響を、アメリカの次に受けやすい国であるともいえる。
所得、教育水準、長寿・健康、社会の安全といった面で、日本はかなり高い水準にある。しかし、今後もグローバル市場で成長し続けるためには、ますます高度の工夫が必要になる。そのために何がいちばん重要か? フリードマンは、イマジネーションだと力説する。それも、人生を肯定する、寛容なイマジネーションでなければならない。
* *
人間のイマジネーションが大切ではなかった時代など、これまで一度もなかった。しかし、本書を書いていくうちに、いまほどイマジネーションが大切である時代も一度もなかったとわかった。なぜなら、フラットな世界では、共同作業のさまざまなインプットやツールが、誰にでも手に入る日用品【コモディティ】になっているからだ。すべてがそろっていて、誰でも自分のものにできる。ただ、けっしてコモディティ化されないものが、たった一つある――イマジネーションだ(本文より)。
* *
アップル、グーグル、マイクロソフトといったグローバルな企業の成功の内幕を、事細かに解き明かす部分もある。ウォルマートのサプライチェーンの仕組み、運送大手のUPSがどこまで業態を広げているか、カンバン方式がデルのような企業でいかに実行されているか、といったことも、本書を読めばよくわかる。
こうした企業を綿密に取材するのは、フリードマンがあくまでテクノロジーやそれを利用するプロセスを重視しているからだ。しかし、テクノロジーのあるなしにかかわらず、繁栄する国や企業や個人と、そうでない国や企業や個人がある。そこには「とらえどころのない物事」が作用している、とフリードマンはいう。逆にいえば、そこに成功の鍵がある。読者には、ぜひそれを本書から汲み取ってほしいと思う。
膨大な事例を用いながら、きわめて広範囲に影響を及ぼす重大なテーマを取りあげた大部の書物について、限られた紙数で手短に紹介したため、茫漠としてしまったかもしれない。前回載せた目次とどうか読み比べてもらいたい。本書の流れがよくわかるはずである。
くどいようだが、本書は個人が(どういう立場にあるにせよ)グローバリゼーションの時代を生き抜くための必読の書である。日本の現状に即して考えさせられる部分も多かった。さまざまな仕事に就いている友人たち、好きな仕事と経済的な問題のはざまにある同業者たち、日々の暮らしに追われている娘たち(未来を背負うのはわれわれの子供たちだ)に贈って、いまの世界を生き延びて繁栄するのに役立ててもらいたい――本書はそんな書物である。ぜひ座右において、われわれの歩んでいる道が正しいことを実感し、あるいは道をはずれていることを認識して正すひとつの指針としてもらいたい。
訳者にとって、二十余年の仕事を通じて、もっともメモラブルな一冊になることはまちがいない。どうかじっくりと読んでください。









