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『アメリカン・スナイパー』クリス・カイル [本・読書]

悲運のスナイパー(軍では「狙撃手」ではなく「狙撃兵」が正確だろう)、クリス・カイルの回顧録。用語の使い方がすこぶるしろうとっぽいが、まずまず大過ない仕上がりになっている。
ただ、重箱の隅ではなく、重箱そのものの思想に問題がある訳語もある。
☆頻出する「司令官」は原文はCO(commanding officer)だと思われるが、「司令官」は海軍では艦隊以上の部隊の指揮官に対する呼称であり、指揮系統からしても、この本の主人公が接触することはありえない。司令官に満たない「司令」という呼称もある。戦闘単位から考えて、「小隊長」や「中隊長」と訳さなければならない。「上司である士官」という表現も、「上官」がふつうだろう。
☆ballistic goggleを「弾道」ゴーグルとするのはいかにも変で、あえて訳すなら、「対衝撃」「防眼」といったところだろう。逆に「マシンガン」は「機関銃」とすることが多いはずだ。
☆民間警備会社のcontractorは、立場をはっきりさせるなら、「要員」ではなく「契約社員」「雇われ警備員」ぐらいか。
☆TOCのcommandを「司令部」とするのもおかしい。軍隊では司令部と称することができるのは、師団以上で、連隊までは「本部」になるし、ここで語られているのは情報。幕僚機能を持つ「作戦本部」のことだろう。
☆「ラマディの悪魔」――アル・シャイタン・ラマディは、アラビア語の「sh」が「太陽文字」なので、「アッシャイターン」が正しい、「t」のあとに「アリフ」があるので、長音になる。「ラマディ」も正確には「ラマーディー」だが、これはまあしかたないだろう。
☆BUD/Sは――Basic Underwater Demoliton/SEAL――「水中爆破/SEAL基礎練成訓練」。
☆「艦内審理」は、指揮官の権限で軽罪に裁定を下すことなので、原語のCaptain's mastを生かし、「艦長審判」とすべきだろう。「軍法」の範囲内(Article15)であるのにnonjudicial punishmentにどうして「司法外懲罰」という訳語をあてるのかも、理解できない。nonjudicialは軍法会議等の「裁判を経ない」という意味でしかない。これはふつう「懲戒」と訳される。
☆「檄を飛ばす」はよくあるまちがい。
☆「最高時速」。船舶では「最大速力」という。潮流などがあるため、実速度になりえないからだ。このあとで「ノット」が使われているのだから、「時速」はことさら奇妙だ。指摘するときりがない……さして目新しい情報があるわけではないが、読みごたえのある本だ。

アメリカン・スナイパー (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

アメリカン・スナイパー (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

  • 作者: クリス・カイル
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/02/20
  • メディア: 文庫



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